変位指定は複合型の間の継承関係とそれらの型パラメータ間の継承関係の相関です。 Scalaはジェネリッククラスの型パラメータの変位指定アノテーションをサポートしています。 変位指定アノテーションにより共変、反変にでき、アノテーション無しなら非変になります。 型システム上で変位指定を利用すると複合型間の直感的な繋がりを作ることができます。 もし変位指定が無ければ、クラスを抽象化して再利用しにくくなるでしょう。
class Foo[+A] // 共変クラス
class Bar[-A] // 反変クラス
class Baz[A] // 非変クラス
共変
ジェネリッククラスの型パラメータAはアノテーション+Aを使うと共変になります。
class List[+A]では、Aが共変になっているので、AがBのサブタイプであるようなAとBに対してList[A]がList[B]のサブタイプであることを示します。
これによりジェネリックを利用したとても便利で直感的なサブタイプの関係を作ることができます。
このシンプルなクラス構成を考えてみましょう。
abstract class Animal {
def name: String
}
case class Cat(name: String) extends Animal
case class Dog(name: String) extends Animal
CatとDogはAnimalのサブタイプです。
Scala標準ライブラリにはイミュータブルなジェネリッククラスsealed abstract class List[+A]があり、型パラメータAが共変です。
これはList[Cat]はList[Animal]であり、List[Dog]もList[Animal]であることを意味します。
猫のリストも犬のリストも動物のリストであり、どちらもList[Animal]の代わりにできる、というのは直感的に理解できます。
以下の例では、メソッドprintAnimalNamesは引数に動物のリストを受け取り、新しい行にそれらの名前をプリントします。
もしList[A]が共変でなければ、最後の2つのメソッド呼び出しはコンパイルされず、printAnimalNamesメソッドの使い勝手はひどく制限されます。
object CovarianceTest extends App {
def printAnimalNames(animals: List[Animal]): Unit = {
animals.foreach { animal =>
println(animal.name)
}
}
val cats: List[Cat] = List(Cat("Whiskers"), Cat("Tom"))
val dogs: List[Dog] = List(Dog("Fido"), Dog("Rex"))
printAnimalNames(cats)
// Whiskers
// Tom
printAnimalNames(dogs)
// Fido
// Rex
}
反変
ジェネリッククラスの型パラメータAはアノテーション-Aを利用して反変にできます。
これはクラスとその型パラメータの間で、共変と似ていますが反対の意味のサブタイプ関係を作ります。
class Writer[-A]ではAが反変になっているので、AがBのサブタイプであるようなAとBに対し、Writer[B]がWriter[A]のサブタイプであることを示します。
先に定義されたCat、Dog、Animalクラスを以下の例で検討してみます。
abstract class Printer[-A] {
def print(value: A): Unit
}
Printer[A]はある型Aをどのようにプリントするかを知っている簡単なクラスです。
特定の型でいくつかのサブクラスを定義してみましょう。
class AnimalPrinter extends Printer[Animal] {
def print(animal: Animal): Unit =
println("The animal's name is: " + animal.name)
}
class CatPrinter extends Printer[Cat] {
def print(cat: Cat): Unit =
println("The cat's name is: " + cat.name)
}
Printer[Cat]はコンソールに任意のCatをプリントする方法を知っています。
そしてPrinter[Animal]はコンソールに任意のAnimalをプリントする方法を知っています。
それはPrinter[Animal]も任意のCatをプリントする方法を知っていることを意味します。
逆の関係性は適用されません、それはPrinter[Cat]がコンソールに任意のAnimalをプリントする方法を知らないからです。
したがって、私達は必要であればPrinter[Animal]をPrinter[Cat]代わりに使うことができます。これはPrinter[A]が反変であるからこそ可能なのです。
object ContravarianceTest extends App {
val myCat: Cat = Cat("Boots")
def printMyCat(printer: Printer[Cat]): Unit = {
printer.print(myCat)
}
val catPrinter: Printer[Cat] = new CatPrinter
val animalPrinter: Printer[Animal] = new AnimalPrinter
printMyCat(catPrinter)
printMyCat(animalPrinter)
}
この出力結果は以下のようになります。
The cat's name is: Boots
The animal's name is: Boots
非変
Scalaのジェネリッククラスは標準では非変です。
これは共変でも反変でもないことを意味します。
以下の例の状況では、Containerクラスは非変です。Container[Cat]はContainer[Animal]ではなく、逆もまた同様です。
class Container[A](value: A) {
private var _value: A = value
def getValue: A = _value
def setValue(value: A): Unit = {
_value = value
}
}
Container[Cat]が Container[Animal]でもあることは自然なように思えるかもしれませんが、ミュータブルジェネリッククラスを共変にするのは安全ではありません。
この例では、Containerが非変であることは非常に重要です。Containerが仮に共変だったとするとこのようなことが起こり得ます。
val catContainer: Container[Cat] = new Container(Cat("Felix"))
val animalContainer: Container[Animal] = catContainer
animalContainer.setValue(Dog("Spot"))
val cat: Cat = catContainer.getValue // おっと、犬を猫に割り当ててしまった。
幸いにも、実行する前にコンパイラが止めてくれます。
他の例
変位指定の理解を助けるもう一つの例はScala標準ライブラリのtrait Function1[-T, +R]です。
Function1は1つのパラメータを持つ関数を表します。1つ目の型パラメータTはパラメータの型を表します。
そして2つ目の型パラメータRは戻り値の型を表します。
Function1はその引数の型に対して反変であり、戻り値の型に対して共変です。
この例ではFunction1[A, B]を表現するためにA => Bという文字での表記をします。
先ほど利用されたCat, Dog, Animalの継承ツリーに、以下のものを加えましょう:
abstract class SmallAnimal extends Animal
case class Mouse(name: String) extends SmallAnimal
動物の種類を受け取り、それらが食べる食料の種類を返す関数がいくつかあるとしましょう。
もし(猫は小動物を食べるので)Cat => SmallAnimalが欲しい場合に代わりにAnimal => Mouseを与えられたとしても、私たちのプログラムはまだ動きます。
直感的に、CatはAnimalなので、Animal => Mouse はCatを引数として受け取ります。
そしてSmallAnimalであるMouseを返します。
安全に、そのままで前者に代えて後者を用いることができるため、Animal => MouseはCat => SmallAnimalのサブタイプと言うことができます。
他の言語との比較
Scalaに似たいくつかの言語で、変位指定はいろんな方法でサポートされています。 例えば、Scalaの変位指定アノテーションはC#のそれと非常に似ています。C#ではクラスの抽象性を定義する時にアノテーションが追加されます(宣言時の変位指定)。 しかしながら、Javaでは、クラスの抽象性を使う時に変位指定アノテーションが利用側のコードから与えられます(使用時の変位指定)。